フィールド科学研究入門 1日目後編「川泳ぎ、海水浴 in 屋久島」

宮之浦港→安房:種子島屋久島交通・路線バス

 タラップを降りてすぐのところに、見覚えがあるようなないような人と大学生らしき人たちが何人か集まっていた。様子から察するにこれがフィールド科学研究入門の集まりらしい。何かしら看板でも持っていてくれたら分かるのに。つまり、見覚えのあるような人が、今回の主催をするY教授で決定。なにせ全体説明会と参加者説明会の時にそれぞれ短時間しか姿を見ていない。ほかにも人が集まってきて20人ちょっとになり、これで全員が揃ったようだった。Y教授は大きな荷物(中くらいのキャスターバッグやスポーツバッグ)を車で運び、僕達は島内を走る種子島屋久島交通の路線バスで、島東部の安房(あんぼう)という島内第二の街に移動する。ちなみに第一はここ、宮之浦。アシスタントの先生(中年の女性の方)の案内で、停車中のバスに乗り込んだ。前ドア1つだけ、約40人乗りの中型車。そこに26人も乗り込んだからあっという間に席が埋まる。このバスはもちろん冷房車で、今日は外にいると汗がにじむくらいの暑さ。なのに窓が全開になっている。最近はやりの省エネかと思ったら、アナウンスで一言「このバスは冷房が故障しております」とのこと。

 12:45に宮之浦港発車。港を出て左に折れ、島を一周する県道を走っていく。車内前方にLED式車内運賃表示器があり、バス停通過ごとに一つずつ進んでいく。大抵のバスなら、自動放送もセットになっているのだが、このバスには自動放送装置はなく、運転士氏の肉声放送によっている。途中いくつかのバス停で一般の人が乗ってきたが、車内の混みようにみんな驚いていた。13:05に屋久島の空の玄関口、屋久島空港に停車。旅客ターミナルビルが平屋建ての空港は初めて見た。ここでの乗降はなく、すぐに発車。なおもバスは海沿いを進み、13:18にバスの営業所がある合同庁舎前(方向幕では「合庁前」)に到着。営業所敷地内に乗り入れて停まったため、冷房の応急処置でもするのかと思いきや、運転士氏が乗客を残して営業所の方へ歩いて行き、すぐに戻ってきた。どうやらただの時間調整を兼ねたトイレ休憩であった模様。13:22に発車。そのへんに何台か停まっているバスに取り替えてくれればよかったなあ。バスは鹿児島方面と種子島・屋久島を結ぶ高速船トッピーが停泊している安房港に立ち寄り、13:26、安房に到着した。

はじめての川泳ぎ

 安房バス停のそばには、今年できたばかりという屋久島で唯一のハンバーガーショップ、モスバーガーがあった。見た感じが福岡にあるような店と違っているので、一行の中には看板がそっくりなだけの偽モスバーガーかもしれないと笑っている人もいたが、Y教授の話で正真正銘のモスバーガーと判明。ここから安房川沿いに歩いて数分で、本日の宿泊地・民宿水明荘に到着。2日目から4日目まで屋久島環境文化研修センターの世話になるのに、なぜ1泊目だけ民宿なんだろう。あとで教授に聞いてみると、先に屋久島入りしている教授の研究室の人たちの活動拠点になっていることと、フィールド科学研究入門で来た人たちに川泳ぎを楽しんでもらうため、とのことだった。つまるところ理由は川泳ぎしかないわけで。あとは屋久島に来たときは必ず泊まることにしているという、数十年来の馴染みとご飯の美味しさも挙げていた。「ここ(水明荘)のご飯は美味しいが、研修センターのはあまり美味くない」とも。

 荷物をおいて簡単なオリエンテーションがあったあと、すぐに自由時間に。みんなで目の前を流れる安房川に泳ぎに出る。これまでプールや遠浅の海でしか泳いだことがなく、川は初めて。石がゴツゴツしていてなかなか歩きづらい。川の水に足を入れて、その冷たさに驚く。慣れてくると、上層の水が冷たく、川底に近い水のほうが温かいとわかった。淡水と海水の比重の差から来ているのだろうか。さらに一歩進もうとして、苔に足を取られて滑って別の石にぶつける。もう一歩進んで足がくぼみに沈み込む。肩まで水に浸かれるところまでたった5m進むのに異様に疲れた。何度か切ったような感触もある。水の中にいる今こそ血は見えないものの、岸に上がればあちこちからにじみ出てくるに違いない。

 ようやっと岩につかまり、身体をプカプカ浮かせることができた。そして僕が川でしたことといえばそれくらいだった。泳ぎはそこそこできる方で、高校までの体育の中で唯一の得意種目が水泳だったくらい。でもそれはプール、いうなれば足のつくただの水たまりの中での話。流水プールにも行ったことはあるが、足はきちんとつくし、なによりそこら中人だらけ。この図体のデカさで溺れろという方が無理だ。しかし川は静かではあるけれども、水全体がすぐそこの河口へ向けて流れている。身体は自然に流されるし、足が付かなくなったところから這い出そうとしてもなかなかうまく行かない。水に恐怖を感じたのはおそらく十五年ぶりだった。

ついでに海水浴、入浴、そして水上夕食会

 他の人達がどんどん上がっていく中、最後に残ったのは僕とS君(のちの自己紹介で、『哲学君』の呼び名がつく)、A君、そしてY教授。ふと、海水浴にも行こうという話になり、車で5分ほどの春田浜海水浴場に泳ぎに行った。中年男性(Tシャツに水着)が運転する車に若い男3人(上半身裸の水着姿)という謎の取り合わせ、途中ですれ違った人たちは果たしてどう思ったのやら。こちらは海の流れから半ば隔離されたようになっているので、水がぬるい。安房川の心臓が止まるような冷たさとは大違いだった。10年ぶりに海水を飲んでペッペと吐き、足がつかないことを恐れて岸のそばをくるくる泳ぐだけ。あとの2人は200mほど先に見える、海岸から地続きの岩場に泳いで上陸していた。教授はその岩場へサンダル履きで歩いて行っていた。帰り際に岩場に大集合するフナムシを発見。大群でもぞもぞされるとなんとも気味が悪い。海水浴場から帰ってきたら、塩水すすぎも兼ねてまた冷たい川の水の中へ。満潮が近づいているのか、川の水はだいぶ増していた。上流から表面張力によって水に浮いた砂粒が、泡のようになって下ってきていた。指で触れると泡が弾け、とても細かい粒がそこに沈んでいく。川から上がる段になって、教授が乗っている車の鍵が見当たらなくなり、ちょっとした捜索騒ぎになった。結局、車のそばの堤防の上においてあるのが見つかった。17:00過ぎに水明荘に戻り、ちょうど空いていた風呂場に入り広々と入浴。20分ほどで、研究班の人たちが入りに来たので入れ替わりに風呂を出る。

 18:00からは水明荘の方のご厚意により、安房川に屋形船を浮かべてその上で夕食会。Y教授曰く、毎年していただいているとのこと。少し上流にある、新しい道路の高いアーチ橋のあたりまで行き、そこからエンジンを切って流れに乗ってゆっくり下る。日が沈んで徐々に暗くなり、薄暗闇の中を水明荘のやや上流まで来たあたりで船を留め、ようやくの自己紹介と相成った。所属学部や屋久島に来た理由などを話す。きっちりした理由を持っている人や、屋久島に心惹かれてきた人、島に行ったついでに単位を取れるから来た人など様々だった。僕の場合は、屋久島に行きたくなったことと、安房森林軌道(日本で唯一の森林鉄道の生き残り)を探すこと。フィールド科学研究入門参加生の紹介の後は、Y教授の研究室の学生さん達の自己紹介があった。食事をとりつつ、船の明かりを消して満天の星空を眺めたり、ちょっとだけ花火をしたりして2時間ほどで会はお開きとなった。次に乗船するお客さんが待っていたので、急いで容器やコップを陸に上げる。

導入研修会・星を見る

 夕食会の後は、水明荘にてようやくの研修らしい研修。屋久島の自然とその保護に関する活動について学ぶということで、画家活動のかたわらヤクタネゴヨウの調査保全活動をしておられる手塚賢至さん夫妻をお招きしての導入研修会が行われた。他のゲストとして、屋久島森林管理署の署長さん、屋久島で淡水魚の調査を行われている方にもお越しいただいていた。手塚さんの語りはユーモアあふれるもので、1時間半ほどの研修会の間、面白く話しを聞くことができた。(久々の遊び疲れで、少々睡魔に襲われたことは否定しない。もしこれが数学の授業だったら、間違いなく眠気に身を任せていたことだろう。)

 21:40に研修会が終わった後、哲学君と一緒に星を見たり、広間にいた何人かとちょこちょこ話をしたりした。自己紹介で鉄道が趣味であることをちょっと話したので、それについての話を振られて、「素朴なギモンに答えるコーナー」みたいに鉄道技術の解説をした。いつの間にか日付が変わろうとしていたので、僕と哲学君、A君の3人で今日寝る部屋に戻ってみたのだが、ドアを開けるとワイワイガヤガヤとトランプ大会中。隣が研修で使った広い部屋で、寝室の割り当てがなかったので近所迷惑は免れたが、とてもじゃないがそのまま寝ることはできない。30分ほどはまた民宿の外に出たり、歯磨きついでに廊下にいたりしたが、結局部屋に舞い戻った。すぐそばの歓声に中断されつつも色々と不思議な話をして、3人ともいい加減眠くなったところでようやくトランプ大会が終了した。時刻は2:00。起床時刻まで5時間半あるのが救いだった。

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