特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)

作成日
2024/08/31:開設
最終更新日
2024/08/31:作成

はじめに

鉄道の安全な運行のために防ぐべき事象のひとつに衝突事故があります。先行列車への追突や、単線区間における対向列車との正面衝突が発生すると死傷者が多数発生する大事故となります。 衝突事故を防ぐために、ある一定の区間に1つの列車しか入れないようにするという概念(考え方)が生まれました。それが「閉塞」(日本の法令上は『閉そく[脚注1]』)です。 閉塞の実現のため、線区の実態に合わせてさまざまな方式が考案・運用されてきました。

その中のひとつに、運用保守のための人手やコストを省力化しつつ安全を保つ自動閉塞の方式として1980年(昭和55年)頃に開発され、当時の国鉄の閑散線区に導入、 現在もJRや第三セクター各線で運用されている「特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)」があります。 この閉塞方式について調査したメモを以下に記載します。

基礎:単線自動閉塞式

単線自動閉塞式の仕組み

単線自動閉塞式では、停車場間(場内・出発信号機を備える駅間)をいくつかの区間に分割して閉塞区間を構成し、各区間に列車が在線しているか検知する軌道回路を組んで、 列車の位置に応じて各閉塞区間への進入の可否を指示する信号現示を自動的に制御します。単線区間での正面衝突を防ぐため、各停車場間の運転方向を両停車場に置かれた一対の「方向てこ」によって固定し、 方向てこで指定した方向と反対方向の信号機をすべて停止信号とします。運転方向の固定後は、出発側停車場の出発信号機を取り扱うことで停車場から進出する閉塞が構成され、 その先は列車の在線状況により自動的に閉塞が構成されます。 停車場間の閉塞区間の数に応じ、同一方向には複数の列車を連続して運転することが可能です。

国鉄による区分では、単線自動閉塞式の略称を「自動A」としていました。鉄道信号系の趣味者がこの略称を利用していたら、単線自動閉塞式のことを意味していると考えて差し支えありません。

自動閉塞式(特殊):単線自動閉塞式における特殊な設備設置方式

次項で説明する特殊自動閉塞式(法令等の記載は「特殊自動閉そく式」)と表記がまぎらわしく、かなりの頻度で混同されているものに「自動閉塞式(特殊)」があります。 自動閉塞式(特殊)は、単線自動閉塞式の仕組みをそのままに設備の簡素化を図ったもので、停車場間を1個の閉塞区間(1閉塞)とし、この区間に連続した軌道回路を設置しています。 停車場間が1閉塞ですので、先発の列車が次の停車場に着く前に、後続の列車が続けて停車場を出発することはできません。

こちらの閉塞方式は、国鉄の区分では「自動B」との略称が定められています。

特殊自動閉塞式とは

単線自動閉塞式は単線区間における自動閉塞を実現する上で大変すぐれたシステムで、各停車場の信号を遠隔地から集中制御するCTC化(CTC駅装置を設置しない停車場においてはARC(自動進路制御)化)を行い、 各停車場に配置していた運転取扱要員を減らしつつ運転上の拠点に集中させるにあたって必須の設備となりました。

しかしながら、沿線各所に設置された信号設備に対して電力を供給するための高圧線を配置する必要があるため設置・運用コストが高く、 列車本数が少ないローカル線を自動閉塞化するには、安全性を確保しつつコストを抑制する必要がありました。

そのための方策として、停車場間を1閉塞とし、 かつ停車場間には軌道回路を設けずに停車場の出入口で列車の進入・進出を検知する機構が注目[脚注2]されました。

このが特殊自動閉塞式です。単線自動閉塞式と比較して、停車場間に連続した軌道回路を設けずに済むことから、信号用高圧線を沿線各所に配備する必要がなくなり、コスト低減が図られています。 当初は単に「特殊自動閉塞式」(国鉄における閉塞方式略称は「特殊自動」)と呼ばれていましたが、 1985年度(昭和62年度)に電子閉塞のシステムができた際に特殊自動閉塞式の一類型「電子符号照査式」として整理されたことから、こちらには「軌道回路検知式」との区分名称が追加されました。 電子符号照査式登場以降の略称は「特殊自動A」とされました。

特殊自動閉そく装置(軌道回路検知式)の仕組み

基礎概念

特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)を実現するための閉塞装置は「特殊自動閉そく装置(軌道回路検知式)」と呼ばれています。

停車場間の閉塞手続は単線自動閉塞式と同様です。停車場間で一対の「方向てこ」を取り扱って単線区間における運転方向を決定し、 次いで各停車場において場内信号機・出発信号機を制御することで閉塞手続が実施されます。 停車場の出入口に2種類の軌道回路(閉電路式軌道回路 [CT: normally Closed Track circuit] ・開電路式軌道回路 [OT: normally Opened Track circuit])を設け、 停車場からの出発(停車場間の閉塞区間への進入)は出口側最後の分岐器を含む軌道回路に続けてCTの通過を検出することにより、また、 次停車場への到着(停車場間の閉塞区間からの退出)はOT通過に次いでCT通過を検出し、 さらにその先(内方)の分岐器を含む軌道回路を通過することにより検知します。この組み合わせによって停車場間の列車の有無をチェックします。

2種類の軌道回路を使い分ける理由として、システムの異常発生や軌道回路の誤検知により、 列車がいるはずの閉塞区間に列車がいないとシステムが誤認識して閉塞を解除してしまう(゠危険側の制御をしてしまう)ことを防ぐことが挙げられます。 CTは列車が軌道回路上に在線している場合にリレーへの通電が遮断されて落下状態(コイルに通電していない状態)となり、また、故障の際もリレーが落下状態となることで列車が在線しているのと同等の動作となるため、 「CTが落下(非動作)状態 = 列車が停車場外に進出し、閉塞区間に進入した」とすることで単線区間の安全が保たれます。 OTは列車が軌道回路上に「いない」時にリレーが落下状態となることから、「CTのリレーが落下状態だが、OTのリレーも落下状態 = 列車は到着しておらず、 閉塞区間にいるかいないかは未確定(もしかしたらいるかもしれない)」と取り扱うことで安全を保つことができます。

特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)において特徴的な構成要素

遠方信号機

短小軌道回路・OT(開電路式軌道回路 [OT: normally Opened Track circuit])

短小軌道回路・CT(閉電路式軌道回路 [CT: normally Closed Track circuit])

脚注

  1. 「閉塞」の語は法令上は『閉そく』の表記とされています。これは関係法令制定時の当用漢字表に『塞』の字がなく、その際の表記目安に従いかな漢字交ぜ書きが行われたことによるものです。2010年11月30日の平成22年内閣告示第2号(常用漢字の追加・一部人名用漢字への移行、および読み例示の追加・削除)により告示された常用漢字表に『塞』が追加されましたが、法令の表記改正は実施されていないため現在もそのままとなっています。
  2. この、閉塞区間への出入口で列車の進入・進出を検知する方式を「チェックイン・チェックアウト方式」と称します。 日本では1961年(昭和36年)10月から国鉄で通票閉塞式(タブレット閉塞式)が施行されていた主要路線に導入された連査閉塞式(法令上は「連査閉そく式」)に採用されました。 特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)でもこの方式が利用され、連査閉塞式(非自動:両端の駅で運転要員による閉塞手続がいる)から改修された事例も多く存在します。

参考文献

  1. 中村英夫「列車制御 ―安全・高密度運転を支える技術―」(オーム社、2011年2月、ISBN978-4-274-20992-5)
  2. 信号保安協会「信号保安」掲載の連載講座
    • 1981年7月号(第36巻第7号)p.335-p.338『新しい閉そく装置(その1)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369792 (参照 2024-08-31))
    • 1981年8月号(第36巻第8号)p.392-p.396『新しい閉そく装置(その2)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369793 (参照 2024-08-31))
    • 1981年9月号(第36巻第9号)p.433-p.438『新しい閉そく装置(その3)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369794 (参照 2024-08-31))
    • 1981年11月号(第36巻第11号)p.549-p.552『新しい閉そく装置(その4)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369796 (参照 2024-08-31))
    • 1981年12月号(第36巻第12号)p.597-p.600『新しい閉そく装置(その5)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369797 (参照 2024-08-31))
    • 1982年1月号(第37巻第1号)p.13-p.16『新しい閉そく装置(その6完)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369798 (参照 2024-08-31))