特殊自動閉塞式(電子符号照査式)【電子閉塞】

作成日
2024/08/26:開設
最終更新日
2025/08/25:運行表示装置の更新問題や設置事例について大幅改稿

当記事について

列車本数が比較的少ないローカル線に導入されている閉塞方式である「特殊自動閉塞式(電子符号照査式)」について、資料を探して調べたメモをここに記載します。随時更新します。

特殊自動閉塞式とは

特殊自動閉塞式は、単線区間における自動閉塞を実施するにあたり、単線自動閉塞式のシステムが備える安全性を保ちつつ、 停車場間の設備を少なくすることでコストを抑えて広く導入するために開発された閉塞方式です。法令上は「特殊自動閉そく式」と記述されています。

その後、さらに小規模のローカル線へも閉塞取扱の自動化を拡大するにあたり、安全性を維持したままより一層のスリム化とコスト抑制を目指した新閉塞システムが開発されました。 当時広まりつつあったマイコンや汎用のパソコンをシステム構成要素のひとつに加えつつ、閉塞の制御に無線通信技術を取り入れたシステムは「電子閉そく」と通称され、 規程上は特殊自動閉塞式の一類型となりました。この時、従来の特殊自動閉塞式に「軌道回路検知式」の補足呼称が追加されました。

→ もともとの特殊自動閉塞式についての詳細は別ページ「特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)」をご覧ください。

特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の概念

閉塞の管理を各駅に設置した駅装置と、各列車に搭載する可搬式の車載器からなるネットワークにより行い、閉塞設定の開始手続を運転士の手により実施(赤外線入力方式の場合は閉塞解錠の開始手続も運転士が実施)することで、 コストを抑えつつ閉塞施行の省力化と集中監視を可能としたものです。

開発の歴史について、「信号保安」1986年8月号の記事『新しい特殊自動閉そく装置(その1)』にある記述を要約しますと次の通りとなります。

1980年度(昭和55年度)から基礎研究が始まり、1983年度(昭和58年度)に技術課題「電子式運転保安装置の開発」(E6073)として指定。 それから研究開発が進められ、1985年度(昭和60年度)に実用化され試験開始。その結果を受け、 1986年(昭和61年)11月1日ダイヤ改正から全国での運用開始。

国鉄における閉塞方式略称は「特殊自動B」もしくは「電子閉そく」とされました。 同時に、従来の特殊自動閉塞式の略称は「特殊自動A」とされました。

システム構成の要素

特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の施行に用いるシステムは「特殊自動閉そく装置(電子符号照査式)」と総称されます。この装置は次の構成要素から成ります。

駅装置

駅装置はその名の通り各駅(場内・出発信号機を備える各停車場)に設置されるもので、伝送部・保安部・入出力部から成っています。 当初の設計区分では、保安部と入出力部を合わせて「保安部」と称し、もとの保安部は「保安制御部」とされていました。

伝送部
他の駅装置や運行表示装置、あるいは駅に設置している付帯設備(乗務員呼出表示灯、沿線の各種異常検出装置、発動発電機〔発々〕(エンジンを回して発電する。いわゆる非常用発電機))との間を結ぶユニットです。 送受信回路とワンチップマイコンを利用して構成され、従来はハードウェアで実現していた1ビット単位の送受信機能もマイコンが担うようにして回路を簡素化しています。 2020年代ではすべてシングルボードコンピュータで実現できてしまうレベルになりましたが、1980年代においては非常に画期的な構成でした。
保安部
駅の連動制御(転轍機・信号制御)や閉塞制御を担う、列車の運転保安に関わる最重要部分です。不測の事態、最悪の場合列車が停車場間で正面衝突してしまうような事態を決して起こさないよう、 フェイルセーフマイコンにより構成されます。フェイルセーフマイコンは、2組のマイコンがフェイルセーフプログラムを交互に実行し、処理中のデータや主要なメモリ内容を比較して、不一致が発生した場合はデータ、 もしくはハードウェアに異常ありとしてただちに動作を停止して故障の警報を出力するようになっています。連動制御盤(入換制御盤)や線路閉鎖操作盤といった、運転に直接かかわる入出力はこの保安部に直接接続されます。
入出力部
車載器と駅装置とのやり取りをするための送受信装置(UHFアンテナ)を接続して通信の入出力をしたり、駅装置が直接制御しない(制御できない)継電連動装置を備える駅がある場合に、 継電連動装置によって設定されている進路条件や、継電連動装置に入力されている在線条件を受け取る役を担っています。

地上送受信装置

車載器

伝送回線

運行表示装置(拡張機能)

運行表示装置(略称「運表」)は運行管理拠点に設置される装置で、管理する線区の運行状況を一覧できます。 装置本体は一般のパソコンです。 装置構築当初は、当時の汎用パソコンにOSとしてMS-DOS(MicrosoftがWindows以前に販売していたOS)を組み合わせ、 その上で動くプログラムはC言語を利用して開発したと「信号保安」の記事に記述があります。パソコンの機種は特に記述はされていませんが、当時の入手しやすさや、 後の時代の記事に掲載されている写真から推測すると、NECのPC-9801シリーズが活用されていたようです。

電子符号照査式では軌道回路検知式と異なり、閉塞手続に各列車が携帯する車載器が関与するため、 運行表示装置を備える拠点から可能な制御は進路制御・信号制御の抑止(抑止てこ)、線路閉鎖指定(線路閉鎖の実操作自体は各駅にて線路閉鎖てこを操作)、 各駅における全信号機への停止信号一斉現示など、列車を停止させたり、特定区間における工事・保守に関連するものに限られています。

仕様書によれば、運行表示装置は外部に接続している駅装置の各ユニットと「伝送入出力部」を介して通信を行います。その際の仕様のうち、ソフトウェアにかかわるものは下表の通りです。

項目性能筆者付記
符号伝送方式RS-232C準拠データのやり取りの際は、現代でも機器制御に使われるシリアル通信の方式に従います。
処理方式プログラム制御ソフトウェアによって各種処理を記述し、リレー等のハードウェアによる内部処理ロジック構築はしません。
形式16ビット並列以上CPUアーキテクチャを定めたものですが、現代であれば64ビットのシステムをあえて16ビットに制約すれば動作エミュレートが可能です。
クロック周波数5MHz以上Intel 8086の下限動作周波数です。これも現代ならば低い周波数での動作をエミュレートできます。
表示文字JIS C6220(情報交換用符号)
特殊文字(図形) JIS C6226(情報交換用漢字符号系)の第1水準・第2水準
現規格におけるJIS X 0201、およびJIS X 0208です。いわゆるJISコードで表現される英数字、ひらがな、カタカナ、漢字を利用します。
メモリ容量RAM 128KB以上現代ならこの10万倍は余裕で用意できます。
コード形式JIS準拠内部の文字処理でJISコードを用います。
キーJIS準拠・ファンクションキー10種以上ファンクションキーつきの一般的なJIS日本語キーボードを用います。
外部記憶部640KB以上いわゆるストレージ容量です。現代ならこの800万倍を即時調達できます。
表示部 サイズ14インチ小型の縦横比4:3のディスプレイです。
表示部 画素640×400ドット現代では考えられませんが、当時の解像度はこんなものでした。2000年代中盤でさえも800×600が普通にありましたし。
表示部 表示色8色現代のターミナルコンソールは基本16色・拡張256色制御をしますので、基本色のバリエーションでも満たせるスペックです。
印字部 印字文字JIS C6220(情報交換用符号)
特殊文字(図形) JIS C6226(情報交換用漢字符号系)の第1水準・第2水準
画面に表示する文字と同じものを印刷できるようにせよ、との要請です。
電源 電源電圧AC100V±10%一般の電灯線(家庭に来る電気)と同じように供給されるならばよい、という意味です。
電源 出力容量300VA以上いたって普通の電源ユニットです。
電源 停電保障時間10分間今であればそこそこのUPSを接続すれば達せられます。
周囲温度0~40℃現代のコンピュータの動作保証範囲に通じます。
相対湿度30~90%現代のコンピュータの動作保証範囲に通じます。

運行表示装置は特殊自動閉そく装置(電子符号照査式)の構成要素としては「拡張機能」にあたるため、閉塞施行に限ってみれば必須要素ではなく、 以下の条件にいずれも該当しない場合は設置は必須ではないとされました。

  1. 運転整理を行う必要がある線区
  2. 無人駅を線路閉鎖区間の境界とする場合
  3. 通過列車の運転線区である場合

しかし、運行管理用の装置を持たない状態では、従来は各駅の運転要員が実施していた列車の通過確認が行えず、 列車位置の把握のために乗務員を都度呼び出すことになりますが、運行表示装置による乗務員呼出機能(各停車場の呼出灯遠隔操作)なし、 かつ列車無線未設置の線区ですと呼び出す手段がありません。 何より、運転業務の効率化ができるのにしないのでは合理化の意味が減じられてしまいます。 結局のところ、全ての線区が条件1「運転整理を行う必要がある線区」に該当することになり、 初期設置17線区19システムすべてに運行表示装置が最初から設置されました。 その後に導入された線区も、運行表示装置を設置しなかった事例は、自分が調べられた限りでは存在しませんでした。

特殊自動閉塞装置(電子符号照査式)と関連する信号設備の定義

特殊自動閉塞装置(電子符号照査式)を設置するにあたり、関連する信号設備についても設置すべき装置の種別や仕様が定義されています。

信号装置

特殊自動閉塞装置(電子符号照査式)を設置する場合には、次の仕様により信号機を設置運用します。

信号機の種類

  1. 主信号機(その信号機によって安全を保証する一定の区間(防護区間)を持つ信号機)は、場内信号機および出発信号機を設置する。閉塞信号機は設けない。
  2. 従属信号機(主信号機の確認距離を補うため、主信号機の信号現示を予告する信号機)として、必要に応じて遠方信号機や中継信号機を設置する。

信号機の現示方式

  1. 出発信号機は、進行および停止信号の2現示とする。
  2. 場内信号機は、進行、注意および停止現示の3現示とし、必要により警戒信号現示を含む4現示とする。
  3. 遠方信号機は、進行、減速および注意信号の3現示とする。
  4. 中継信号機は、進行中継、制限中継および停止中継信号の3現示とする。
  5. 信号現示の制御は、非保留現示とする。
    • 列車が半自動の信号機を制御する軌道回路に進入することにより停止現示となった時、 列車が当該軌道回路を抜けても改めて信号てこを扱わない限り停止信号を現示し続けるようにする制御を「保留現示」、 当該軌道回路を抜け、さらに先の軌道回路を通過するにつれて自動的に現示が変化する(上位現示への切り換えを実施する)制御を 「非保留現示」と呼びます。
    • 【※参考1】 信号てこの操作と軌道回路等の両方の条件により現示が決定する信号機を半自動の信号機と称します。 自動閉塞式、特殊自動閉塞式の施行区間に設置されている場内信号機、出発信号機は半自動の信号機です。
    • 【※参考2】 信号てこの操作によってのみ現示が決定する(軌道回路等、人の操作以外の制御条件がない)信号機は手動の信号機、 軌道回路等の条件によってのみ現示が決定する信号機(閉塞信号機)は自動の信号機と称します。

遠方信号機、場内信号機、出発信号機の現示系統(各信号機間の現示の関連付け)は次の通りとなります。

パターン遠方信号機場内信号機出発信号機
通過時進行(G)進行(G)進行(G)
停車時(通常の場合)減速(YG)注意(Y)停止(R)
停車時(過走余裕が取れない場合)減速(YG)警戒(YY)停止(R)
機外停止注意(Y)停止(R)-

単線区間の列車交換駅において自列車と対向列車がともに駅に接近している時、万が一列車がオーバーランした際にその対向列車と衝突するおそれがある場合は、対向列車との同時進入は許可されません。 ただし、場内信号機に警戒信号を現示できるようにしている場合は、警戒信号を現示の上、その指定速度(25km/h以下)にて同時進入を許可することができます。

連動装置

特殊自動閉塞装置(電子符号照査式)を設置する場合には、停車場に次の3種類の連動装置のいずれかを選択して設置運用します。

第1種電子連動装置
停車場に動力転轍機(現代においては電気転轍機)を設置している場合。
第2種電子連動装置
停車場に発条転轍機(スプリングポイント)のみを設置している場合。
第3種電子連動装置(※1993年3月に対象として追加
停車場に転轍機を持たない場合。
第3種連動装置とは、信号機の操作を1箇所に集中させ、かつ分岐器の操作を分岐器そばの「鎖錠できない」転轍機で操作して、 回路制御器により分岐器の開通方向を照査しつつ信号機と分岐器の間で連鎖を行うようにしている連動装置の類型です。 当初はこの仕様の連動装置は国鉄→JRには存在していませんでした。 JR九州の日南線南郷駅(1面1線)で列車折り返しを新規に実現するための信号装置設置方式が検討された際に、 南郷駅に設置する信号制御用の装置をこの第3種電子連動装置として運輸省(当時)が認可しました。(後述)

なお、従来より継電連動装置が設置されている駅、および特殊自動閉塞装置が想定する進路規模(3線8進路)よりも大きな駅で継電連動装置が設置される駅についてはそれを活用し、 特殊自動閉塞装置の連動機能は利用せず、制御状態をインターフェースを介してやり取りします。

閉塞手続の処理手順

特殊自動閉塞式(電子符号照査式)施行区間で列車を運転するにあたっては、あらかじめ各列車に対応付けた列車識別符号(列車ID)を記憶している可搬式の車載器を運転士が携帯します。車載器は運行管理の必要に応じ、運行管理上の拠点駅で取り替えることがあるほか、他の閉塞方式との境界駅で積み下ろしを実施します。

出発時処理

※太字(赤文字)が運転士が実施する操作です。それ以外の手順は装置内部の処理です。

出発前~出発直後

  1. 運転士が停車場出発前に、車載器にある「出発要求」押しボタンを押下する(※赤外線式の場合は、車載器リモコンを受光器に向けて「出発要求」押しボタンを押下する)。
  2. ボタン押下により、列車識別符号が車載器から無線通信で駅装置の保安部に入力される。
  3. 入力された列車識別符号の「出発」ビットが設定されている場合に、この駅を『発駅』として処理を開始する。
  4. 発駅における「だし設定」条件を照査(チェック)する。すべてが条件を満たしていれば「OK」とし、次の処理に移る。
    1. 列車追跡
    2. 列車在線
    3. 進路定位
    4. 閉塞解錠
    5. 出発抑止解除
    6. 誤出発
    7. 誤定進路
    8. 番線指定
    9. 駅状態
  5. 相手駅の駅装置に対して「設定要請」を伝送回線を介して送信する。
  6. 「設定要請」を受信した相手駅の駅装置は、『着駅』としての処理を開始する。
  7. 着駅における「うけ設定」条件を照査(チェック)する。すべてが条件を満たしていれば「OK」とし、次の処理に移る。
    1. 進路定位
    2. 閉塞解錠
    3. 方向優先
    4. 連動状態
    5. デッドロック
    6. オーバーリーチ
  8. 着駅の駅装置の閉塞状態を「受鎖錠」に遷移させる。(列車の到着を待ち受けるモードに移行する。)
  9. 着駅から発駅に「設定許可」の情報を返送する。
  10. 発駅で「設定許可」情報を受信したら、閉塞状態を「出設定」に遷移させる。(列車を発車させるための処理モードに移行する。)
  11. 発駅の駅装置から発駅の連動装置に出発進路反位制御を出力する。(連動装置は列車の出発ができるよう転轍機を転換し、条件が整ったら出発信号機に進行を指示する現示を出す。)
  12. 出発進路の構成が完了し、進路が鎖錠されたら(自列車出発を妨げるような進路が構成されないようロックされたら)、閉塞状態を「出鎖錠」に遷移させ、閉塞を鎖錠する。(列車が発駅から着駅に向けて走るよう設定し、列車が着駅に到着するか、特別な手続きにより閉塞解錠をするまでいかなる閉塞操作も受け付けないようにする。)
  13. 運転士は信号現示と時刻を確認し、発車時刻になったら列車を発車させる。

出発後

  1. 列車発車後、先頭が出発信号機を越えた(内方の軌道回路に進入した)時に出発信号機を復位する(停止現示に戻す)。
  2. 列車が完全に出発信号機を越えた(ホームトラックを抜けた)ら、閉塞取消手続を不可能とし、着駅に「進出」の情報を送信する。
  3. 着駅の駅装置は、発駅からの「進出」情報を受信して一定時分経過した時点で、駅装置に予め記憶された当該列車(当該列車ID)の停車・通過情報を参照し、通過設定の場合は、着駅の次の駅の駅装置との間で閉塞手続を実施する。
  4. 着駅の駅装置は、場内信号機を反位に制御する(駅への到着を許可する信号を現示する)。

到着時処理

到着時に実施する処理は、無線通信式の場合は自動で行われ、赤外線式の場合は運転士の手により「到着登録」の操作を実施することで行われます。

  1. 列車が場内信号機内方の軌道回路に進入する(列車到着を検知する)とともに、場内進路を復位制御する(場内信号機を定位に戻し、列車が転轍機部分を抜けた後に転轍機の鎖錠を解く)。
  2. (※無線通信式のみ)列車到着を検知した着駅の駅装置が車載器に対してポーリング符号を送信する。ポーリング符号には閉塞手続の際に受信した車載器の列車識別符号(列車ID)をデータとして載せる。
  3. (※無線通信式のみ)車載器がポーリング符号に自動応答する。応答識別符号には車載器の列車識別符号(列車ID)をデータとして載せる。
  4. (※赤外線式のみ)運転士が駅にある受光器に向けて車載器リモコンを向け、「到着」ボタンを押下する。
  5. 着駅の駅装置が閉塞解錠条件を照査する。
    1. 列車識別符号(列車ID)が閉塞手続時にやり取りした符号と一致しているか。
  6. 閉塞解錠条件を満たした場合は、発駅の駅装置に「解除要請」信号を送信する。解錠要請信号には車載器の列車識別符号(列車ID)をデータとして載せる。
  7. 発駅の駅装置は「解除要請」が送信された閉塞解錠条件を照査する。
    1. 列車識別符号(列車ID)が閉塞手続時にやり取りした符号と一致しているか。
  8. 閉塞解錠条件を満たした場合は、発駅の閉塞を解除し「解除許可」信号を返送する。
  9. 「解除許可」信号を受けた着駅の駅装置が閉塞を解除する。

停車場を通過する場合の到着・出発処理

特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の施行区間内であれば、各駅装置における列車識別符号(列車ID)の停車・通過情報に基づき、1つ先の駅間の閉塞手続も行います。

  1. A駅 → B駅間の閉塞手続を実施する。
  2. 列車がA駅を発車する。
  3. A駅発車の情報を受信してから一定時間経過後、当該列車がB駅を「通過」するよう登録されている場合は、B駅の駅装置はB駅 → C駅間の閉塞手続を自動で行う。
  4. 列車がB駅に進入する。
  5. A駅 → B駅間の閉塞解除手続が自動的に実施される。
  6. 列車がB駅から進出(B駅を通過)する。

一方で、他の閉塞方式が施行されている区間との出入りの場合は、特殊自動閉塞式(電子符号照査式)施行区間へ入ってくる場合に、 閉塞方式の境界駅で一旦停車をしての出発要求操作が必須となります。 出て行く場合は、無線通信式については閉塞解除手続を自動で実施するため境界駅を通過することができます。 (後段「電子符号照査式のシステムが抱える問題点」も参照ください。)

導入線区

1986年(昭和61年)11月1日、国鉄最後のダイヤ改正となったこの日から、下記17線区19システムでの運用が始まりました。 下記の通り、宗谷本線と姫新線が2分割収容となっているためシステム数が線区数より2個多くなっています。

  • 根室本線(東釧路~根室)
  • 釧網本線(東釧路~網走)
  • 宗谷本線(永山~名寄・名寄~南稚内に2分割)
  • 函館本線(長万部~小樽)
  • 日高本線(苫小牧操車場~様似)
  • 大船渡線(一ノ関~盛)
  • 五能線(東能代~川部)
  • 小海線(小淵沢~小諸)
  • 小浜線(敦賀~東舞鶴)
  • 姫新線(姫路~東津山・津山~新見に2分割)
  • 牟岐線(徳島~海部)
  • 土讃本線(高知~窪川)
  • 香椎線(西戸崎~宇美)
  • 大村線(早岐~諫早)
  • 三角線(宇土~三角)
  • 肥薩線・吉都線(肥薩線八代~吉松と吉都線都城~吉松~肥薩線隼人に2分割)

国鉄→JR

北海道総局→JR北海道

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
函館本線長万部~小樽倶知安無線通信式1986年11月1日運用中
根室本線東釧路~根室厚岸無線通信式1986年11月1日運用中
釧網本線全線(東釧路~網走)摩周(※)無線通信式1986年11月1日運用中
宗谷本線(A)永山~名寄名寄無線通信式1986年11月1日運用中
宗谷本線(B)名寄~南稚内名寄無線通信式1986年11月1日運用中
日高本線全線(苫小牧(貨)~鵡川)不明(※)無線通信式1986年11月1日運用中
  • 管理駅(運行表示装置設置駅)はシステム設置当時の駅です。現地機関の拠点移転とともに移転している可能性があります。
  • 釧網本線に関する情報
    1. システム設置当時は、摩周駅は弟子屈てしかがと名乗っていました。1990年11月20日に摩周駅に改称されています。
  • 宗谷本線に関する情報
    1. 運行表示装置1台で管理できる駅装置数の制限(最大15個)により、永山~名寄間と名寄~南稚内間の2区間に分けて運行表示装置が設けられています。
    2. 宗谷本線名寄~稚内間で、2024/08/24と2024/09/23の2回にわたり列車の運休・バス代行を伴う大規模な『運行管理システムの切替工事』が実施されました。
      • 宗谷本線の運転設備スリム化(列車交換設備廃止による冬季の転轍機除雪箇所削減)のため、2024年9月24日に佐久駅と抜海駅の両駅の交換設備を廃止するのに伴う切替工事でした[鉄電協202508]
      • 交換設備廃止とともに両駅に設置されていた電子閉塞システムの駅装置も廃止するのに伴い、駅装置間の伝送回線中継装置の設置場所変更、各駅の駅装置の情報更新(駅数情報書き換え)、運行表示装置のソフトウェア改修、軌道回路更新、佐久・抜海両駅至近の踏切制御の自動化など多くの工事が実施されました。
      • 工事実施後も引き続き電子閉塞システムは運用されており、(B)の区間の運行表示装置も引き続き名寄駅に設置されています。
      • なお、抜海駅については2025年3月15日に駅そのものが廃止されました。
  • 日高本線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始当時の全線(苫小牧(操)~様似間)に対して当方式が施行されました。管理駅(運行表示装置設置駅)は静内でした。
    2. 管理駅は、2015年1月8日の高波災害により鵡川~様似間が不通となって以降も、少なくとも2016年9月時点では静内のままでした。2021年4月1日に鵡川~様似間が正式に廃止されて以降の管理駅は不明です。(日高線運輸営業所が所在する苫小牧に移転したと推測されます。)

本社直轄(旧関東支社・新潟支社管内、長野鉄道管理局)→JR東日本

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
山田線宮古~釜石宮古無線通信式1987年3月22日路線移管・システム変更済
大船渡線全線(一ノ関~気仙沼)一ノ関無線通信式1986年11月1日運用中
五能線全線(東能代~川部)秋田総合指令(※)無線通信式1986年11月1日運用中
小海線全線(小淵沢~小諸)中込無線通信式1986年11月1日システム変更済
  • 山田線に関する情報
    1. 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)により不通となり、2019年3月23日の復旧時に三陸鉄道に移管され、リアス線の一部となりました。復旧にあたり特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に切り換えられました。
  • 大船渡線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始当時の全線(一ノ関~盛間)に対して当方式が施行されました。
    2. 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)により全線不通となった後、一ノ関~気仙沼間は鉄道として運転が再開されました。気仙沼~盛間は2013年3月2日にBRTにより仮復旧され、2020年4月1日に正式廃止(BRTによる本復旧)となりました。
  • 五能線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始時点の管理駅(運行表示装置設置駅)は東能代でした。
    2. 導入後まもなく、秋田支社管内の路線をすべて秋田CTCセンター(当時)から一括管理・制御する方針となったため、運行表示装置を約60km離れた秋田に移転し、電子閉塞システムとの間を通信回線で結ぶ措置が取られました。 1990年3月以降、運行管理は(秋田CTCセンター→)秋田総合指令から行われています[鉄電協199104]
    3. 遠隔制御導入当初は運行表示装置と駅装置との間のシリアル通信(RS-232C規格)にモデムを介在させて自社回線(東能代)/NTT迂回回線(川部)により接続しており、符号を直接伝送していました。当時のパソコン通信で言うバイナリ無手順伝送です。現在の実装方式は不明です。
  • 小海線に関する情報
    1. 小海線は2020年10月12日にATACS応用の地方交通線向け列車制御システム(無線式列車制御システム)に更新されました。 (類型としては引き続き特殊自動閉塞式(電子符号照査式)とされています。)

本社直轄(静岡鉄道管理局、名古屋鉄道管理局)→JR東海

現在施行区間なし

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
太多線全線(美濃太田~多治見)美濃太田無線通信式1988年3月13日システム変更済
  • 太多線に関する情報
    1. 1993年10月のCTC(列車集中制御装置)導入に際して、自動閉塞式(特殊)に更新されました。

本社直轄(旧関西支社・中国支社管内、金沢鉄道管理局)→JR西日本

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
小浜線全線(東舞鶴~敦賀)小浜無線通信式1986年11月1日システム変更済
加古川線全線(加古川~谷川)加古川(※)赤外線式1990年10月1日システム変更済
姫新線(A)上月~東津山不明(※)無線通信式1986年11月1日一部区間変更
姫新線(B)津山~新見津山無線通信式1986年11月1日運用中
境線全線(米子~境港)米子赤外線式1992年3月システム変更済
  • 小浜線に関する情報
    1. 小浜線は特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に更新されました。更新時期について明確な資料は見つかっていませんが、 電化着工のニュース[鉄電協200009]に軌道回路の改良を実施する旨の記載があることから、 電化開業した2003年3月15日、あるいはその少し前の切換と推定されます。
  • 加古川線に関する情報
    1. 運行管理装置は加古川駅のほか、保守監視拠点のある西脇市にも設置されていました。
    2. 加古川線は2004年4月に単線自動閉塞式に更新されました。(線区集中電子連動装置が導入されました。)
  • 姫新線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始当初は、姫新線全線のうち因美線の列車が乗り入れる東津山~津山間を除く区間に導入されました。
    2. 当初は、運行表示装置1台で管理できる駅装置数の制限(最大15個)により、姫路~東津山間と津山~新見間の2区間に分けて運行表示装置が設けられていました。姫路~東津山間の管理駅は播磨新宮、津山~新見間の管理駅は津山でした。
    3. 姫路~上月間は2010年1月に自動閉塞式(特殊)に更新されました。(線区集中電子連動装置が導入されました。)残る区間は引き続き特殊自動閉塞式(電子符号照査式)が施行されています。
    4. 施行区間短縮により運行表示装置1台でも管理が可能な交換駅数となりましたが、運行表示装置の設置方式に変化があったかどうかは不明です。(東津山~津山間に乗り入れる因美線の運行管理の都合上、システムは分離されたままと思われますが、運行表示装置が津山に集約された可能性はあります。)
  • 境線に関する情報
    1. 2015年10月4日に拠点無線式列車制御システムに更新されました。(類型としては引き続き特殊自動閉塞式(電子符号照査式)とされています。)

四国総局→JR四国

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
土讃線高知~窪川高知無線通信式1986年11月1日運用中
牟岐線全線(徳島~阿波海南)徳島無線通信式1986年11月1日運用中
  • 牟岐線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始当時の全線(徳島~海部間)に対して施行されました。また、正式運用開始前の1986年8月11日から試験運用が実施されていました。

九州総局→JR九州

路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
香椎線全線(宇美~西戸崎)香椎無線通信式1986年11月1日システム変更済
大村線全線(早岐~諫早)早岐無線通信式1986年11月1日運用中
三角線全線(宇土~三角)熊本(※)無線通信式1986年11月1日運用中
肥薩線(A)全線(八代~人吉~吉松)人吉(※)無線通信式1986年11月1日(災害運休中)
肥薩線(B)・吉都線全線(都城~吉松~隼人)隼人無線通信式1986年11月1日運用中
日南線田吉~志布志南宮崎無線通信式1992年12月1日(※)運用中
  • 香椎線に関する情報
    1. 2017年1月29日に特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に変更されました。
  • 三角線に関する情報
    1. 1986年11月1日運用開始当初は、宇土に運行表示装置が設置されていました。(熊本への移転時期は調査中です。)
  • 肥薩線・吉都線に関する情報
    1. 肥薩線・吉都線は運行系統の都合、および運行表示装置1台で管理できる駅装置数の制限(最大15個)により、 人吉駅設置の運行表示装置(肥薩線八代~人吉~吉松間)と隼人駅設置の運行表示装置(肥薩線吉松~隼人間、および吉都線全線)に分けて管理されています。
    2. 肥薩線(A)の区間の運行表示装置は、当初は八代に設置されていたとの記述が資料にあります[信号保安198709]
    3. 肥薩線(A)の区間の運行表示装置は、2020年7月4日の豪雨災害により人吉駅が水没した際に故障しました。(なお、管理区間の大部分が被災したため路線そのものが運休中です。)
    4. 肥薩線(B)・吉都線の運行表示装置は当初吉松に設置されていました。2022年3月31日の吉松駅完全無人化により隼人駅に移転しています。
  • 日南線に関する情報
    1. 1992年12月1日運用開始当初の全線(南宮崎~志布志間)に対して当方式が施行されました。
    2. 日南線は電子閉塞導入のタイミングで南郷駅(1面1線)での折り返しを可能とする設備を新設しましたが、電子閉塞システム導入線区における1面1線の途中駅での折り返し設備設置は全国初であったため、 信号設備の審査および類型整理と認可に時間を要しました[現業199309]
    3. 略史
      • 1992年6月8日:電子閉塞システム導入に係る信号通信関係の工事に着手。(連動装置更新、色灯式信号機設置、軌道回路新設、信号ケーブル敷設、踏切改良等)
      • 1992年11月14日~11月23日:電子閉塞システムのモニターラン(信号・転轍機の制御なし)実施。
      • 1992年11月24日~11月30日:電子閉塞システムのコントロールラン(信号・転轍機の制御あり)実施。
      • 1992年12月1日:南郷駅を除き、南宮崎~志布志間の全線において電子閉塞システムおよび各種信号設備の運用開始。
      • 1993年3月:南郷駅の折り返し用信号設備を第3種電子連動装置として運輸省が認可。
      • 1993年3月16日:南郷駅信号設備運用開始。
      • 1996年7月18日:宮崎空港線開業に伴い、南宮崎駅から分岐駅として新設された田吉駅までの区間を特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に切り替え(車載器は従来通り南宮崎駅にて積み降ろしの取扱)。

第三セクター

事業者名路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
わたらせ渓谷鐵道わたらせ渓谷線相老~間藤大間々赤外線式1989年3月29日運用中
真岡鐵道真岡線全線(下館~茂木)真岡無線通信式1988年4月18日運用中
いすみ鉄道いすみ線全線(大原~上総中野)大多喜無線通信式1988年3月10日
(JR木原線時代)
運用中
天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線全線(掛川~新所原)天竜二俣無線通信式1988年3月13日システム変更済
長良川鉄道越美南線美濃太田~美濃白鳥赤外線式運用中
北近畿タンゴ鉄道
(京都丹後鉄道)
宮津線
(宮舞線・宮豊線)
全線(豊岡~西舞鶴)宮津無線通信式1990年3月運用中
錦川鉄道錦川清流線北河内~錦町錦町赤外線式1991年3月運用中
平成筑豊鉄道田川線全線(田川伊田~行橋)金田赤外線式1991年3月16日運用中
松浦鉄道西九州線(A)全線(有田~伊万里~佐々)佐々無線通信式1988年3月13日
(JR松浦線時代)
運用中
松浦鉄道西九州線(B)全線(佐々~佐世保)佐々無線通信式1988年3月13日
(JR松浦線時代)
運用中
南阿蘇鉄道高森線全線(立野~高森)高森赤外線式1989年7月運用中
高千穂鉄道高千穂線全線(延岡~高千穂)高千穂赤外線式1996年1月1日(災害廃線)
  • いすみ鉄道いすみ線に関する情報
    1. いすみ鉄道いすみ線の電子閉塞システムはJR木原線時代末期に工事、および訓練運用が行われました。 1988年3月10日より、従来の通票閉塞式を施行しつつ電子閉塞装置の訓練運用を実施し、いすみ鉄道への移管時より 本格的に運用開始されました。
  • 天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線に関する情報
    1. 天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線は1988年3月13日から2017年3月まで電子閉塞システムが運用されていました。
    2. 略歴
      • 1988年3月13日:掛川~金指間を通票閉塞式から特殊自動閉塞式(電子符号照査式)に変更。
      • 1989年3月11日:金指~新所原間を通票閉塞式から特殊自動閉塞式(電子符号照査式)に変更。全線を電子閉塞化。
      • 2015年3月14日:天竜二俣~新所原間を特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に変更。同区間に線区集中電子連動装置を導入して集中連動化。
      • 2017年3月末:掛川~天竜二俣間を特殊自動閉塞式(軌道回路検知式)に変更。同区間を線区集中電子連動装置の制御下に組み込み集中連動化。電子閉塞システムの運用を終了。
  • 松浦鉄道西九州線に関する情報
    1. 松浦鉄道西九州線は、運行表示装置1台で管理できる駅装置数の制限(最大15個)により、Aシステム(13連動駅管理)とBシステム(8連動駅管理)に分割して管理されています。 運行表示装置はAシステム・Bシステムとも佐々駅に設置されています[鉄電協201306]
      • Aシステム:有田・蔵宿・夫婦石・伊万里・楠久・久原・今福・松浦・御厨・たびら平戸口・江迎鹿町・吉井・佐々(吉井方閉塞管理)
      • Bシステム:佐々(真申方閉塞管理)・真申・相浦・上相浦・中里・左石・北佐世保・佐世保
  • 高千穂鉄道高千穂線に関する情報
    1. 2005年9月6日の台風14号により全線にわたり橋梁流失、路盤流失、倒木等の大被害が発生して全線運休となり、その後再開されないまま2007年9月6日に延岡~槇峰間が廃止、2008年12月28日に槇峰~高千穂間が廃止されました。

民鉄

事業者名路線名導入区間管理駅方式導入時期現況
熊本電気鉄道菊池線全線(上熊本~北熊本~御代志)北熊本赤外線式1988年1月11日運用中
熊本電気鉄道藤崎線全線(藤崎宮前~北熊本)北熊本赤外線式1988年1月11日運用中
上毛電気鉄道上毛線全線(中央前橋~西桐生)中央前橋赤外線式1988年8月5日運用中
  • 熊本電気鉄道菊池線・藤崎線に関する情報
    1. 赤外線リモコン式のシステムは熊本電気鉄道に導入されたのが日本初の事例です。 熊本電気鉄道の要望をもとに、大同信号が無線通信式システムをもとに設計製作して納入しました[信号保安198804][DAIDO62-1]
    2. 電子閉塞システムは1988年1月11日からの本運用に先立って、1987年11月22日から試験運用が実施されていました[DAIDO62-2]

電子符号照査式のシステムが抱える問題点

他の運行管理システムとの相互接続が困難(当システムへの情報入力が不可能)

電子符号照査式(電子閉塞)のシステムは、それがひとつの独立完結したシステムであり、当時存在した他のCTCのシステムや運行管理システムとの接続を意図したインターフェースは設けられませんでした。 当システムは閉塞手続が駅装置と車載器、および各停車場間の駅装置との間で完結するものであり、運行表示装置(列車の運行形態によっては設置不要)から介入できるのは信号制御抑止しかありません。 そのため、他システムと接続した場合でも列車在線情報の相互入出力ができるにとどまることから、既設CTCへの接続インターフェースを省略したのではないかと推測しています。 しかしながら、他システムとの連携が必要な場面が諸々登場することとなりました。

昔から存在した問題が、「特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の施行区間への進入の際は、次停車場までの閉塞手続が必要なため境界駅で必ず停車する必要がある」問題です。 先に挙げた導入線区のうち、その問題が大きく表れているのが宗谷本線の永山駅です。永山駅から北、名寄・稚内方面へ行く下り列車は次の比布駅までの閉塞手続(車載器操作による出発要求)のため、 特急「宗谷」「サロベツ」も含めて全列車が停車(特急は運転停車)します。上り列車は特別な操作は不要なため、特急は通過します。一度施行区間に入ると、運行表示装置が持つ通過情報をもとに駅装置間での通信を行って、 次の停車駅までの閉塞を確保可能な限り確保するため、閉塞手続のためだけの停車は不要となります。宗谷本線以外の各線では全列車が境界駅で営業停車(利用客の乗り降りが可能)としているため、 見た目上は不自然な動きはありません。運行管理システム(あるいは他のCTCシステム)からの情報入力ができれば、車載器操作に代わって情報を電子閉塞システムに送り込んで閉塞手続ができるのですが、 その実現はもはや不可能な状態です。(後述)

JRが自社管内の運行管理をエリアに1~2個程度の大規模な総合指令センターに集中させ、運行管理システムによる各種制御を行うようになった今も、 電子符号照査式施行区間の運行管理拠点(運行表示装置の設置)は各路線の拠点駅、あるいはそこからほど近い主要駅に置かれたままとなっているようです。 近年各社が提供するようになった運行管理システムからの情報配信に基づく列車走行位置表示サービスも、 当方式による閉塞施行区間は運行管理システムが情報を取得できないため非対応となっています。 (ただし、土讃線の高知~窪川間についてはJR四国による列車走行位置表示が提供されているため、ここについては閉塞方式も含めた再調査が必要そうです。)

しかしながら、どの事業者でも完全に孤立したシステムと化してしまっているわけではなく、2010年代以降に限定的な情報連携用のインタフェースを活用し、 電子閉塞システムからの情報提供という一方通行ではあるものの、運行管理システムとの一部連携を図った事例も存在します[DAIDO134]。 北近畿タンゴ鉄道(現在は第3種鉄道事業者。運行業務はWILLER TRAINS(京都丹後鉄道))では、2013年に導入した宮福線の運行管理システム(CTC・PRC)に、 宮津線(宮舞線・宮豊線)の電子閉塞システムの運行表示装置から列車番号情報を受け取るインタフェースを設け、 宮福線の運行制御や、宮津駅において電子閉塞システムに出発手続を行う着発線を入力するための出発線指定てこの自動制御に活用しています。

閉塞装置保守部品の調達の難しさ

電子符号照査式のシステムは、全線区で1986年11月1日から一斉に使用開始され、それからすでに38年近く(記事執筆の2024年8月25日現在)が経過しています。このシステムは当時のマイコン技術をふんだんに取り入れて構築されており、 主要部品は半導体素子となっています。半導体部品を工業製品として利用するにあたって問題となるのが、古い部品の調達が難しい特性です。

当システムの構成部品の詳細は分かりませんが、一般には半導体素子を含む情報技術関係の部品(ハードウェア)は変遷が他の工業製品と比べて非常に速く、 40年前の部品をそのまま入手できる可能性はほとんどありません。 代替品も見つかるとは限りません。大規模に流通し利用されている一部のメジャーな素子(8ビットマイクロプロセッサのZ80、トランジスタの2SC1815など)であれば継続生産されるか、 あるいは同仕様の代替品生産によって長期的に入手可能ですが、ほかは短期で生産終了してしまうことがほとんどです。在庫がどこかから見つかれば幸せ、そうでなければ似た仕様の素子を探して交換可能か特性評価をするか、 システムを総取っ替えしなければならないというくらいには部品的な問題から長期保証が難しいです。産業向けはメーカーがかなり頑張って保守部品を調達、あるいは生産供給しますが、それでも40年近くとなるとかなり無理があります。

そこそこ古めの機械、鉄道分野ならばそれこそ蒸気機関車だったり国鉄時代までの電車・気動車レベルですと、引退済の同型や類似型の車両から部品を取り外して整備再利用する手法は普通に行われていますが、 この手の機器だともう基板や構成する半導体以外の素子も劣化していることが多く、部品取りという形での整備運用は困難です。

運行表示装置の保守体制維持の難しさ

先述の通り、特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の運行表示装置は汎用コンピュータ(いわゆるパソコン)を利用し、そのソフトウェアはMS-DOS上で実行され、そのプログラムはC言語で記述されているとのことでした。 初期のハードウェア・ソフトウェアが現在もまだ動き続けている現場がどの程度存在するかどうかは把握できていません。 そうした現場では動作を受け継いだ最新版のハードウェア・ソフトウェアへの更新(言うなれば「式年遷宮」)をしていないので、40年前のハードウェア and/or ソフトウェアがそのまま存在し続けていることになります。

運行表示装置の更新が行われている現場は一部あります。2016年7月公開のJR北海道の資料「『持続可能な交通体系のあり方』について[JR北海道201607]」 で紹介されている函館本線倶知安駅の運行管理システムの写真に写っていたマシンが1996年製のPC-9800シリーズでした。新設時から10年後に一度更新されていることになりますが、 画面内容から見るに、MS-DOS上で動くプログラムがそのまま動作しているようです。しかしその更新以降、資料作成時点で20年、2025年8月時点では29年運用が続いてしまっていることになります。

2000年代以降に運行表示装置が更新された事例も複数見つかりました。 運行表示装置に用いられているPC-9800シリーズの新規受注受付が終了したのが2003年9月30日、出荷終了したのが2004年3月で、 これ以降に運行表示装置が故障した場合、新品のPCによる更新が確約できなくなりました。そのため、 2006年度以降、動作環境をNECの産業用PC(PC/AT互換)とWindows(産業用途向け特別版)に置き換え、運行表示装置をWindows上で動くプログラムにした運行表示装置が開発されました。 導入が確認できているのは下記2線区です。 (いずれも記事では直接明言されていませんが、説明用に配置されている写真から読み取ることができました。)

  • 天竜浜名湖鉄道天竜浜名湖線[DAIDO116](※既に電子閉塞システムの運用終了済)
  • 北近畿タンゴ鉄道宮津線[DAIDO134](運営は京都丹後鉄道。運行系統は宮豊線・宮舞線)

情報技術の進化の速さや、システムに求められる機能の変化との兼ね合い

ここまでに、ハードウェアやソフトウェアにおいて40年前の仕様のものがそのまま動いていると説明しました。 情報技術の世界で40年前のハードウェアやソフトウェアを取り扱える人は、そうしたメーカーの専従者以外では稀です。 各種工作機械(旋盤など)のようにそれ自体の構造が確立しているのであれば、技術を受け継ぐことはできます。コンピュータの世界ではそうしたことは一般には行われません。徐々に改良していって、 いつの間にか元々のものとは似ても似つかないところまで変化しているか、あるタイミングでリプレースしてしまうため、過去のものが特に存在していない、というのが大部分を占めます。

古いパソコンであっても、単に利用するだけであるなら、それに見合う操作マニュアルを用意すれば、諸々の運行管理は可能です。しかし、そこまでしかできません。 先述の諸問題(特殊自動閉塞式(電子符号照査式)の区間に進入する際には全列車の一旦停車を要する、他の運行管理装置との情報連携ができない)は、 問題が現れた時代やそれに近いハードウェア・ソフトウェアで動いているなら技術者も豊富ですし、ハードウェアも十分入手できるため、問題解決のための改修や機能追加が容易です。 しかし40年も経ってしまうと、徐々にハードウェアやソフトウェアを扱える技術者がいなくなり、「使えはするけどそれ以上どうしようもない」事態に陥る可能性が高くなります。

将来的に保守が困難になるシステムを更新するか使い延ばすかを検討した結果、既存の運行管理システムに組み込む形での更新、既存技術を用いたシステムによる更新、新規開発システムによる更新を実施した線区は複数あります。 前二者は天竜浜名湖線(天竜浜名湖鉄道)、加古川線(JR西日本)、香椎線(JR九州)等が該当します。後者は小海線(JR東日本)と境線(JR西日本)が該当します。 JR九州でも別の形での閉塞システムの研究を鉄道総研との共同プロジェクトで実施しているとの報告[鉄電協201810]がありましたが、 その後大規模な実証実験に進んだとの報告もなく、それらしき設備が増えているような状況もありません。

参考文献

  1. 日本鉄道電気技術協会「信号入門〔改訂版〕」(2004年9月9日、ISBN4-931273-33-5)
  2. 中村英夫「列車制御 ―安全・高密度運転を支える技術―」(オーム社、2011年2月、ISBN978-4-274-20992-5)
  3. 信号保安協会「信号保安」掲載の連載講座【特殊自動閉塞式(電子符号照査式)】
    • 1986年8月号(第41巻第8号)p.409-p.414『新しい特殊自動閉そく装置(その1)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369853 (参照 2024-08-24))
    • 1986年9月号(第41巻第9号)p.459-p.471『新しい特殊自動閉そく装置(その2)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369854 (参照 2024-08-24))
    • 1986年10月号(第41巻第10号)p.521-p.535『新しい特殊自動閉そく装置(その3)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369855 (参照 2024-08-24))
    • 1986年11月号(第41巻第11号)p.583-p.592『新しい特殊自動閉そく装置(その4完)』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369856 (参照 2024-08-24))
  4. 信号保安協会「信号保安」1987年8月号(第42巻第8号)p.395-p.401『電子閉そく装置の開発』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369865 (参照 2024-08-26))
  5. 信号保安協会「信号保安」1987年9月号(第42巻第9号)p.471-p.475『昭和61年度信号保安新設備の概要』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369866 (参照 2025-07-06))
  6. 信号保安協会「信号保安」1988年4月号(第43巻第4号)p.194-p.198『光通信方式による電子閉そく装置について ―熊本電気鉄道―』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369873 (参照 2024-08-26))
  7. 信号保安協会「信号保安」1988年6月号(第43巻第6号)p.281-p.283『木原線第3セクター化に伴う電子閉そく装置の導入について』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2369873 (参照 2025-06-21))
  8. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」1990年11月号(第1巻第5号)p.40-p.43『技術資料:加古川線の電子閉そく装置』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3313969 (参照 2024-08-26))
  9. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」1991年4月号(第2巻第4号)p.57-58『五能線電子閉そくの遠隔制御を実施して』(第4回鉄道電気テクニカルフォーラム論文) (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3313973 (参照 2025-08-25))
  10. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」2000年9月号(第11巻第9号)p.74『ニュース:小浜線(JR西日本)の電化着工』 (国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/3314086 (参照 2025-06-22))
  11. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」2013年6月号(第24巻第6号)p.75-p.77『わたしの会社:松浦鉄道(株)の巻』
  12. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」2018年10月号(第29巻第10号)p.14-p.18『地上設備の削減を目指した地方交通線向け列車制御システムの開発』
  13. 日本鉄道電気技術協会「鉄道と電気技術」2025年6月号(第36巻第8号)p.45-p.49『電子閉そく区間におけるスリム化の取組』
  14. 鉄道現業社「鉄道電気」1993年9月号(第46巻第9号)p.23-p.25『日南線 電子閉そく装置を導入して』
  15. 大同信号(株)「DAIDO」No.62(1988/01)p.2-p.9『光通信方式による電子閉そく装置 RM410』
  16. 大同信号(株)「DAIDO」No.62(1988/01)p.10-p.13『熊本電気鉄道(株)沿線を訪ねて』
  17. 大同信号(株)「DAIDO」No.116(2007 Vol.1)p.8-p.9『電子閉そく装置用 運行表示装置のWindows化 運行表示装置[AP43-24,25]』
  18. 大同信号(株)「DAIDO」No.134(2013 Vol.2)p.12-p.15『電子閉そくシステムと一体化した 北近畿タンゴ鉄道株式会社殿 宮福線運行管理システム』
  19. JR北海道公表資料「『持続可能な交通体系のあり方』」について(平成28年7月29日)(PDF) https://www.jrhokkaido.co.jp/pdf/161215-7.pdf(参照 2025-08-24)